はじめに
「平均」を表す方法は幾つか種類がありますが、こと投資となると幾何平均が用いられることが多いと思います。これに対して、「なんでだろう?」と疑問を持つ人がいるのかいないのか分からないのですが、私のような人間は疑問を持ってしまうので、その考えをここにメモしておきます。
注目する値によって平均の取り方を変える必要がある
注目する値が、元の値に対する割合で表される場合は、幾何平均を、注目する値が、元の値と同じ次元で表されるときは、算術平均を利用するのが効果的です。
算術平均は増減の幅に注目している
例えば、太郎君の資産が、元本100万円から始まり、紆余曲折を経て追加入金無しに、10年後に150万円になった場合、資産の増加額の算術平均は5万円になります。
増加額の平均 = (150 – 100)/10 = 5
です。
一方で、花子さんが元手1億円を、追加入金無しに、10年かけて1億50万円にした場合、資産の増加額の算術平均は5万円になります。
増加額の平均 = (1億50万 – 1億)/10 = 5
です。
この場合、二人とも10年間で50万円増やしているので、投資の成績としては同じと考えられるか?と言うと、そうではなく、一般的には太郎さんの方が投資の成績は良いと考えられます。
これは、投資のリターンは元手に対する割合で考えられるためであり、太郎さんは、10年かけて50%のリターンを獲得した一方で、花子さんは0.05%のリターンを獲得したにすぎないためです。
一方で、次郎さんが200万円を元手に、5年で220万とした場合、5年間での増加額の平均は4万円となり、5年間で10%のリターンを獲得したわけですが、この場合、太郎さんや花子さんと比べて次郎さんの投資の成績は良いのか、悪いのかどちらでしょうか?
幾何平均は増減の割合に注目している
投資の成果はリターンで定義される一方で、元本、投資期間等いくつかのパラメーターがケースによって異なるため、うまいこと比較ができないという問題が起こります。
先の三人の状況を整理すると、こんな状況になります。
名前 | 元本 | 投資期間(年) | 成果(金額) | 成果(%) |
---|---|---|---|---|
太郎 | 100万円 | 10 | 50 | 50 |
花子 | 1億円 | 10 | 50 | 0.05 |
次郎 | 200万円 | 5 | 20 | 10 |
この、ばらばらの条件を比較しやすくするために以下の条件を設定します
- 投資の成果は元本に対する割合で評価する
- 割合は1年あたりの増加率で評価する
これを規定することで、三人の投資成績を同じ基準で比べることができるようになります。これはつまり、特定の年限運用した場合、その成果を得るには、平均して年利何%のリターンが必要なのか?という軸で評価することになり、この計算そのものが幾何平均というものになります。
太郎さんの場合、10年間かけて50%の成果を達成しました。その場合、1年あたりの成績は、元本に対して平均的に何パーセントになるでしょうか?
10年もあると年によって凸凹があるので、分からないという話もありそうですが、ここでポイントになるのが「平均的に」と言う言葉です。
各年の太郎さんのリターンをa1,a2,,,a10とし、リターンの幾何平均をamとすると、以下の関係が成り立つので、a1,a2,,,a10を個別に知る必要はありません。
(1+a1) x (1+a2) x (1+a3) x,,, x (1+a10) = (1+am)^10
よって、太郎さんの投資のリターンはam = (1+0.5)^(1/10)-1で表されます。
同様に、花子さんのリターンをbとすると、bm = (1+0.005)^(1/10)-1で表され、次郎さんのリターンをcとすると、cm = (1+0.1)^(1/5)-1と表されます。
これを計算して改めて表に整理すると、
名前 | 元本 | 投資期間(年) | 成果(金額) | 成果(%) | 成果(%) |
---|---|---|---|---|---|
太郎 | 100万円 | 10 | 50 | 50 | 4.1 |
花子 | 1億円 | 10 | 50 | 0.05 | 0.05 |
次郎 | 200万円 | 5 | 20 | 10 | 1.9 |
となり、単年度の利回りに直して比較した場合、太郎さんのリターンが圧倒的に優れていることが分かります。
と言うことで、投資のリターンをなぜ幾何平均で比較するのか?と言うと、
元本の大きさと、投資期間の長さに影響されない形で、標準化した形で比較したいから。であり、それを実現できるのが幾何平均だから。
と言うことになります。
まとめ
- 投資の世界ではなぜ幾何平均を利用し、算術平均ではないのかを考えました
- 結論としては、「条件の異なる量を比較するのにそれが便利だから」なのですが、これが分かると、異なる金融商品を比較する時にも一つの指標にできて、さらに便利が広がると思います
- ちなみに、これも金融教育の一つかと思いますが、中学の数学もしくは高校の数学ぐらいですかね?N乗根の数式とかは高校だったかもしれません。